ミツ木々
見目麗しい令嬢すら苦笑いでかわす彼に、オビはいよいよ我慢できずに文句を垂れた。勿体無いったらない。 「別に、木々のほうが綺麗だろ。強いし」 目が本気だ。オビは心持ち引いてしまった。 「木々嬢、あそこにヤバい人が」 「管轄外」 一蹴である。ドロー、とオビは両手を広げた。ベルアニ
エレンが、ジャンが、と彼女の口から馴染んだ名が繰り出され、ライナーが、というところでついにイエスマンの建前が崩れた。眉間の皺をアニが覗き込んでくる。 「ベルトルト?」 ベルトルトは口を曲げた。 「もう一回」 「は?」 何が、と怪訝がる彼女の声を待ちわびる。アルアニ
少ない体力を無駄に消費することもないだろう。待ち合わせの時間まであと十五分もあるというのに眼前の男は呼吸が荒い。 「走る意味あんの、それ」 「え?」 アルミンは手で顔を扇ぎながら笑っている。 「アニだって十五分も前なのに早いね」 今後二度と張り切らぬことにした。ミツ木々
ノックの直後にオビが上がり込んできた。手を伸ばして枕元の明かりを点ける。 「うわ、旦那もう就寝です?早っ」 「おまえと一緒にするな」 「えー」 じゃあよそ当たりますと白けた声でオビが退散する。ミツヒデは息をついた。 「行ったぞ」 シーツが動く。息を潜めていた木々が頭を覗かせた。クリジル
乱雑に積まれた資料の中央でジルがモニタを睨んでいる。暇なクリスは手近なファイルに手を伸ばした。 「あ、駄目!」 鋭く牽制される。 「あなたに触らせるとろくな事にならない」 「考え過ぎだ」 「終わったら相手してあげるから」 大人しくしてて、と彼女があやす。クリスは渋々引き下がった。ベルアニ
胸倉を掴まれたかと思うとぐんと引かれ、不自然な前傾姿勢に慌てたところで彼女の歯がぶつかった。腑抜けた衝撃。ベルトルトは口元を押さえる。 「痛っ!ちょっと、アニ!」 眼光がきつい。被害者はこっちだ。 「遠いのが悪い」 「いや、僕だけのせいじゃ」 皆まで言う前にひっくり返っていた。クリジル
ゾンビみたいな顔をしていると笑われた。仕事が片付いたらディナーでも。誘う言葉ひとつでゾンビはいとも容易く精気を取り戻す。 「あなた本当に私のことが好きね」 ジルが肩を震わせて笑い出した。冗談のつもりらしい。 「そうだな」 クリスは肩を竦める。 「君のことがずっと好きだった」クリジル
要するに彼女の生存は諦念されたのだ。やがて骨のない墓が建てられ、それから三年もの月日を重ねた。 「そんな人間が生きてるだなんて誰が信じるの?わざわざ現地にまで乗り込んで」 ジルは呆れている。 「どこへだって行くさ」 本気だった。どうかしてる、とその声をきっと何年だって追い続けた。ミツ木々
突然顔を寄せられたので思わず顎を引かせてしまった。それでも尚距離を詰めてくるものだから当然まともな接触にはならず、おざなりなキスに木々は顔をしかめる。 「がっつきすぎ」 「いや、すまん」 つい、と余裕のない言い訳。やるならちゃんとやってほしい。訴えるまでもなく再びがっつかれた。クリジル
ドアの開く音で意識が浮上した。起きたら最後、溜まりに溜まった書類の相手をしなければならない。狸寝入りを決め込む。 「もう」 すぐそこでジルが呆れている。頑なに寝息を偽装していると額に柔らかい感触が。直後にリップノイズ。 「これでどう?」 起きて、と手厳しい声。ばれていた。