ベルアニ

舌が潜り込んできたところでう、となってしまった。口腔をさぐる動きにもろくな反応が返せない。 「アニ、息しないと」 「わかんないよそんなの」 どうやるの。見上げるとベルトルトは困ったように笑う。 「どうやるんだろう」 「はあ?」 結局よくわからない。もう一回、と慣れぬキスをせがむ。

ミツ木々

顔色が悪い。額を押さえるように顔を覗き込むと、思いがけず、木々のほうも思いがけなったのだろうが大きく瞠られた双眸に見上げられた。 「何」 「あ、いや、調子悪いとか」 「なんともないけど」 手を払われる。彼女の驚いた表情が新鮮で、綺麗な目だな、という言葉まで飲み込んでしまった。

クリジル

真顔がまず物騒なのだ。重ねてだんまりとくればおおよその人間が不機嫌と判断して近寄らなくなるわけで、結局それをそうと判断しないジルがお守りをせねばならない。 「黙ってたってわからないわ」 クリスの頭を抱え込む。 「慰めてほしい時はそう言いなさい」 いい加減泣き方を覚えてほしかった。

銀月

目を瞑れと言ったがあしらわれ、三秒だけと粘ると月詠はしぶしぶ承諾した。目を瞑る彼女にキスをする。 「何じゃ」 「ちゅう」 人差し指と小指を立てて顔を作る。それは狐でありんしょ。冷静な突っ込み。 「そろそろ素直になりません?」 狐をぱくぱくさせる。彼女は呆れたように笑っていた。

ベルアニ

嫌だ、とアニが吐き出した。嫌だ。やりたくない。 「巨人になんかなりたくない」 揺れぬ瞳のかわりに言葉が揺れている。不安定な語尾にはきっと続きがあった。人殺しになんてなりたくない。 「僕も嫌だな」 ベルトルトは笑う。壁を壊すことよりも憂鬱だ。彼女が人殺しと呼ばれることが悲しかった。

坂陸奥(幻の音大パロ)

下唇にヘルペスができたと聞いて坂本は腹を抱えて笑い出した。陸奥は無視を決め込んで楽器ケースを開く。 「吹いたら爆発するぜよ、ヘルペス」 「手入れじゃ」 坂本はまだ笑っている。 「ほいたら今日はわしのリサイタルじゃー」 音面が完全に陸奥をおちょくっている。ああ畜生。楽器が吹きたい。

アルアニ

きつく閉ざされていた瞳は本人の意思を無視してじんわり溶けていた。真正面から見惚れているとアニが居心地悪そうに身じろいで、アルミンは逃すまいと頬を押さえて優しく欲張る。 「もっとよく見せて、アニ」 羞恥にいっそう潤んだ蒼の深みが美しい。睨まれたが逆効果だ。欲情しただけだった。

トニペパ

ばちんと鳴った音はいささか鈍く、打たれた頬より彼女の手のほうが痛そうだ。本人は本人で手が出たこと自体がまず想定外だったらしい。 「わ、私」 狼狽えるペッパーに手の平を向ける。謝罪を遮ったトニーはその手で彼女の頬に触れた。 「これで相打ちといこう」 怒るな、と頬に優しくキスをする。

ミツ木々

ペンを置いた木々の口から溜息がもれた。珍しい、とオビは目を瞬かせる。 「恋患いですか、木々嬢」 面倒臭げに一瞥された。 「そうかもね」 彼女は無感情にオビをあしらって席を立つ。ストレートなジョークのつもりだったが、ペンを取り落としそうになっている彼のほうはどうやら重症らしかった。

ミツ木々

ご都合主義だ。可愛げもなく本を返すとミツヒデはそうだなあと言って笑った。 「つくり話にこそ救いがないと」 「あんたらしいけど」 線引きが雑だ。 「まあ、でも、ハッピーエンドは願ってるさ。ゼンと白雪の」 模範解答。私はそれだけじゃない、と自分ばかり告げるのも癪で木々は口を閉ざす。

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