クリジル

背後から回ってきた腕がそれらしい動きを見せ始める。ジルはそれをやんわり押し返した。眠たいのだ。 「ジル」 「だめ」 背中に密着する体温がすでに熱い。纏り付く腕に辟易して振り返ると唇を吸われた。 「駄目?」 大の男が顎を引いて窺いを立てる。面白いほど似合わぬ仕草に陥落してしまった。

トニペパ

ラボに降りてきたペッパーはどうやら機嫌が芳しくない。トニーは両腕を広げて出迎えた。 「やあ、ハニー」 「ハァイ、ダーリン」 つかつかと足音まで棘々しい。小言が始まったところでアームに合図した。突き飛ばされた彼女をまんまと抱き止める。 「ダミー!」 トニーはさりげなく親指を立てた。

ミツ木々

ソファにもたれて目を閉じる。頭蓋骨を圧迫するような痛みが一向に引かない。 「悪化したらしんどいって言ったでしょ」 薄目を開くと木々が呆れていた。ひやりと温度の低いてのひらが額に当てられる。 「薬もらってくるから」 薬よりもこの手のほうがいい。本音を口にするほどの気力もなかった。

ミツ木々(ハロウィンネタ)

あ、と思った時には赤い痕が残っていた。突き刺さる木々の視線が痛い。 「すまん。つられた」 「何に」 血かな、と胸元の情痕をなぞる。彼女の溜息。 「あんたいつから吸血鬼になったわけ」 「満月あたり」 「それ狼男でしょ」 どっちでもいい。ミツヒデは笑いながら捕食に取りかかる。

クリジル(ハロウィンネタ)

しなやかな腕が首に絡みつく。あれ積極的な日か、と期待したクリスの首に激痛が走った。 「痛ッ!ジル!」 噛まれた。慌てて引き剥がすとジルが声を立てて笑っている。 「何だ急に」 「ゾンビごっこ」 相当酔っているらしい。これではゾンビというより猫だ。クリスは息をついて笑い声を塞いだ。

銀月

静かだ。夜明けが近い。 「銀時、起きなんし」 「んー」 ごねる頬をぺちぺちとやる。朝には帰さねば。月詠も仕事だ。けれど絡みついてきた腕に呆気なく布団に沈んだ。 「たわけ、時間が」 「いいわ、朝までは、馬鹿で」 声が寝ている。馬鹿でいられたらどれだけいいか。月詠はその頭を張った。

クリジル

頬を押さえ込まれて何事かと思うとジルの顔が間近にあった。何事だ。 「ジル?」 「唇割れてる」 珍しいことではない。気にするなと言いかけた唇にぬめる物体が触れた。ひりつく表面を舌がなぞる。 「応急処置」 なんて、とジルが笑う。舐めると余計に乾燥するわよ。味気なくリップが飛んできた。

ベルアニ

悪い夢だったらよかったのに。ぼんやり呟くとアニが目をすがめた。 「巨人になるのも、人を殺すのも、全部夢なら」 うん、とアニが息をつく。 「でも、だから、あんたらといられる」 「珍しいこと言うね」 「そうでも言ってないとやってらんない」 たしかに、とベルトルトはかろうじて笑った。

クリジル

色素の薄い睫毛が影を落とす。深い眼差しがどこか心許ない。 「時々消えてしまいたくなる」 ジルは少し笑った。眦を歪めたクリスの耳を両手で柔らかく覆う。次に紡がれるであろう悲しい言葉を聞きたくなくて、クリスはゆっくり目を伏せた。何も聞けぬ臆病者だ。交わしたキスだけが寂寥を告げていた。

トニペパ

ついにペッパーが臍を曲げた。 「私より機械の相手をするほうがよっぽど楽しいみたいね」 顔を上げる。彼女はとうに背を向けていて、トニーは慌ててその腕を掴んだ。 「ペッパー、待て」 「何よ。人を怒らせた顔とは思えないわ」 「そういうことだ」 表情が締まらない。彼女のやきもちだなんて。

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