ミツ木々

何やら反応が薄い。おずおず唇を離すと案の定甘やかとは程遠い空気である。 「木々?」 「今遠くで雷鳴った」 「いや、そうじゃなくて」 雰囲気。肩を落とすとようやく思い当たったらしい。木々がごめんと笑う。 「ちゃんと集中する」 宣言するものでもない。文句は口付けでうやむやにされた。

クリジル

何とはなしにソファに押し倒したところで頭をはたかれた。はたかれた、と表現は一言で済むがジルの腕力は洒落にならない。 「なんとなくで盛るのやめて」 目敏い。 「君だってまず手が出てる」 「待ての躾がなってないのかしら」 お互い、とジルの失言。お互い様か、としめたクリスは挽回を図る。

坂陸奥

お手々繋いでみな帰ろ、高らかな音痴に怪訝な顔をすると坂本まできょとんとした。 「日暮れ方っちゅーたらこれじゃろ。みーんな知っとーど」 「知らん」 鼻を鳴らす。夕暮れがあかいことだって初めて見たのだ。長く伸びた影が覚えのない感傷を呼び、けれど嫌いではないな、と陸奥は彼の手を払う。

クリジル

ジルが息をつく。溜息の原因は自分ではなく溜め込んだ書類のほうだ。と思いたい。 「まさか徹夜?」 「肌に悪いかな」 無言で頭を張られた。 「手伝うわ。作業回して」 「そう言ってくれると思った」 「高くつくわよ」 体で返す、とふざけると肘が入った。彼女との食事に向けて気を持ち直す。

ベルアニ

何か話題を、と隣を見るとアニとばっちり目が合ってしまった。処理に困る沈黙が。 「に、人間、誰しも怖いものが」 「なんで饅頭こわいが始まるわけ」 いや、とベルトルトは縮こまる。 「そういうの野暮だよ」 何かしらの含みがある。いまいち自信が持てず、結局ぎこちないキスになってしまった。

クリジル(5ED直後)

ヘリから降りた足が上手く立たず、かわりに逞しい腕に支えられた。見上げた彼の瞳は優しく、その向こうの朝焼けもまた優しい。綺麗だ。ジルの表情から力が抜ける。 「クリス」 なんて久しい感覚だろう。 「私、いま、笑えてる?」 感情がこぼれる。ああ、と不器用に笑った彼が涙を拭ってくれた。

ミツ木々

けれど少し不毛なのだ。 「よく考えると贅沢なポジションですよねえ、木々嬢の相棒どの」 オビは呑気である。そう思うか、とミツヒデは気休めに笑った。背を預けることも預けられることもたしかに代えがたい。 「俺はそれさえなければって時々思うよ」 無論それだって譲るつもりはないけれど。

ミツ木々

いつもと違うにおいがする、とミツヒデが鼻を寄せてきた。 「あんたのにおいじゃないの」 「ああ、なるほど」 勝手に納得している。何でもいいが擽ったい。 「俺はいつものほうが好きだな」 真顔である。あんたのも嫌いじゃないけど、と流したつもりが擽ったいどころの話ではなくなってしまった。

クリジル

背中に何かが衝突した。腹のあたりに腕が回され、五秒だけ、とジルの声がくぐもる。表情も感情も見えない体勢のまま五秒、離れたジルの声は普段と変わらない。 「大丈夫。ありがとう」 クリスは体ごと振り返る。 「俺の五秒もある」 笑い方が心許ない。引き寄せた彼女を正面から受け止める。

木々とヒサメ

戻ってきた木々が辺りを見渡した。ああ、とヒサメは離れの人だかりを示す。 「君の相棒ならあそこ」 彼女が視線を向ける。令嬢がたに捕まってるよ、と言うとそのようですねとポーカーフェイス。 「気になる?」 「特に」 そう言うだろうと思っていた。ヒサメは笑いを堪えながらグラスを傾ける。

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