クリジル

唇を離すとジルが目を細めた。何やら物言いたげである。 「あなたのキスって嫌いじゃないけど」 クリスは眉を顰める。その気のない甘言なら聞き慣れているが、けど、の先が面白くない。顔を寄せるとジルが顎を引かせた。 「煙草吸ったでしょ」 マイナス、と彼女の苦言。構わずに減点のキスをする。

千速

担任の絶叫が腑に落ちず、渋い顔をする千葉の横でついに速水が吹き出した。 「速水?」 「いや、目がないって」 ひどい、と彼女は肩を震わせている。その笑い方も大概ひどい。 「速水が笑うならなくてもいいか」 「やだよ。怖いよ」 速水がまだ笑う。まあそれならそれで、と千葉も溜飲を下げる。

ミツヒデとオビ

旦那ァ、と間延びした声に呼ばれて振り返る。オビが肩をぶつけてきた。 「どうしたんです、引くほど熱い眼差しで木々嬢見つめて」 「引くほどは余計だ」 「熱いほうは否定しないんですね」 黙って視線を戻す。剣を振るう彼女を眺めながら、綺麗だよなあ、と呟くとオビが露骨にしょっぱい顔をした。

千速

寒風に首を竦めながら、冬だなあと千葉が呑気に呟いた。 「地球終わりかけてるって実感ないよな」 「冬とか実感しちゃってるしね」 終焉感がない、と愚痴る。終焉感、と彼が楽しげに繰り返した。 「でも俺、来年こそ速水と手繋ぐ予定だし」 千葉は朗らかである。終焉感ないよ、と速水は笑った。

クリジル

きっとこの先も相容れることはないのだろう。如何せん彼の望む答えをジルは持ち合わせていないのだ。 「あの時俺を庇いさえしなければ、とは思わないのか」 「思わない。あなたを死なせずに済んだならそれでよかったの」 それだけのために、と彼が憂える。それだけでよかったのよ、とジルは笑った。

ミツ木々

見当織が軽く飛ぶほど深く寝入っていたようで、木々は目を覚ますなりはっとして体を起こした。おはよう、とミツヒデが本を片手に笑っている。 「慌てなくても今日は休みだぞ」 木々は苦虫を噛み潰す。珍しいな、と上機嫌な彼に髪を指摘され、寝癖は構わないが収まりが悪くてシーツに潜り直した。

クリジル

彼の足枷となっている自覚はあった。この身を犠牲にしたことで呵責や負い目といった根深いところで彼を縛り付けている。その事への後悔が拭えず、しかし彼は自分も同じだと言う。 「俺だって似た形で君を縛り付けてるだろう。それに君のほうがまだ真っ当だ」 罪悪感があるだけましだ、と彼は笑った。

ヒルまも

満身創痍を絵に描いたような状態である。右腕をやられ、心身ともに打ちのめされておかしくないはずの彼は、そんな体でまだ闘志を手放さない。 「糞マネ」 掠れた声がまもりを呼ぶ。続く言葉など容易に想像がついた。 「テーピングの用意しとけ」 馬鹿な男だ。わかってる、とまもりは目許を拭った。

クリジル

不器用が祟って女性を落とすのが下手だ。という愚痴をなぜか当人の前でこぼす羽目となり、当人は当人で、銃を落とすのは得意なのにね、と容赦がない。 「母性本能くすぐる方向でいったら?」 「銃なくすと君怒るだろ」 「私関係ないじゃない」 君の話だよ、とも言えない。難儀な話である。

ミツ木々

乗り上げてくるなり噛みつかれて驚いた。甘噛みなんて可愛いものじゃない。痛い。 「木々!」 彼女は涼しい顔をしている。何事だ、と訊くとキスマークのかわりと突っ返された。 「独占欲なんてあったのか」 「確かめる?」 はらと彼女の髪が頬にかかる。ああ、と応じた声は情けなくも掠れていた。

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