クリジル

背中に治りかけの傷を見つけた。 「この傷は」 「ああ、先週だったかしら、ちょっとね」 彼女は多くを語らない。何を語ったところでクリスの憂慮が消えぬことを知っているのだ。傷をなぞるとくすぐったいと笑われた。自分がいればこの背に傷など負わせずに済んだのに。

クリジル

家に誘うとジルが指を向けて、下心、と指摘した。ばれた。 「何でわかるんだ」 「付き合い長いもの」 負けじと彼女の顔を見つめる。かち合った瞳は少しばかり挑発的だ。 「やり返す気?」 ジルが笑う。 「今はやめたほうがいいかも」 帰ってからね、と頬にキス。完全に遊ばれている。

ミツ木々

無骨な指が髪をくしけずる。なにか勿体ぶるような、まどろっこしい手つきがどうにもむず痒い。普段ならとっくに振り払っている。けれど木々は目下そんな気力もなく眠かった。 「大人しいな、今日」 ミツヒデが笑う。本音が本音だけにいくらか癪に障ったが、皮肉を考えるのも億劫で無視を決め込む。

木々とオビと

過保護、世話焼き、と各自の愚痴が飛び交う。過保護なのはあんたらにだけ、とオビが指摘し、木々も、口やかましいのはあんたにだけ、と切り返す。やかましいですね、とオビ。こっちも鬱陶しい、と木々。 「――俺はここにいる」 「知ってる」 「見えてますよ」 陰口なら陰口らしくしてほしい。

クリジル

勿論これまでの関係を捨てたいわけではない。けれど職場でキスするなと言うなら、キスをする時くらい相棒の距離を捨ててくれてもいい。 「恋人ごっこでもしろって言うの?」 一方のジルはすげない。 「スウィーティって呼ぼうか」 「勘弁してよ、ハニー」 呆れる彼女と恋人のようなキスをする。

ブースとブレナン

つまりそれが真実でないと相手が理解していることが前提で。ブースは小難しい顔をしている彼女に講釈を垂れる。ジョークの構造を説くのも野暮な話だが相手が彼女では仕方ない。 「ほら練習だ。何か言ってみろ」 「あなたが大嫌い」 「ボーンズ」 そうじゃない、とたしなめる。ハイセンスすぎる。

ミツ木々

子爵令嬢ともなれば縁談の類いも後を立たぬだろう。ただでさえこの容姿だ。 「妬ける?」 いやいやとミツヒデははぐらかす。まず身が持たない。 「世界が違うな、とか、そういう」 「ふうん」 残念、と木々がしれっとこぼして去っていく。どういう意味だ。取り残されたミツヒデは一人立ち尽くす。

ブースとブレナン

ちぐはぐな心が寄り添うのに何年もかかった。数えきれぬほど擦れ違って、けれど、いずれはこの日がくるとわかっていたのだ。 「何度だって言うぞ俺は。そして君に、だから言っただろ、と言ってやる」 ブースは彼女の手を取る。 「最初からわかったんだ」 運命さ。呆れる彼女とこれからの約束を。

クリジル

きっと指輪をなくす、とジルは縁起でもない予言をする。言い返せぬ自分も自分だ。 「指輪のないプロポーズをしたら教えてね」 笑ってあげるから、と完全に他人事である。バリーと賭けている可能性すらある。 「教えるまでもないかも」 「何それ」 いずれにせよ笑われることになるのだろう。

千速

あんたも同じでしょ、と速水は平坦な声で決めつけたが確かにその通りであった。大丈夫ではないのに大丈夫を押し付けられ、大丈夫じゃないと叫ぶことも下手で行き着いた場所がここE組だ。本当は誰かに助けてほしかった。 「で、本題は?」 「数学おしえて」 しかし前置きが長い。千葉は吹き出した。

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