クリジル
原型の見当すらつかぬ化物が落とした鍵を拾い上げ、体液を拭ってジルに差し出す。彼女は一応受け取る体だが不満そうだ。 「私、貴重品係じゃないんだけど」 「なら俺が持つか?」 それはそれで眉を顰められた。 「絶体絶命の予感がする」 同感だ、とクリスも頷く。ジルは嘆息して鍵を受け取った。ジェリズ
彼女の台詞を先回りすると、はいはいすごい、とあしらわれた。 「また思考パターンがどうのって話?」 「違うよ。君のことをよく見てるんだ」 同じでしょ、とリズボンが眉を顰める。確かに同じだ。納得する傍ら、まさか口説き文句が職業病に分類されるとは、とジェーンは彼女を真似て口を曲げる。ミツ木々
顔を顰められる回数は減ったがこき使われる回数が増えた。あれ、と指された文献をミツヒデははいはいと引き抜く。 「感謝のひとつくらいあってもいいと思うぞ」 「頬にキスでもしようか」 危うく文献を取り落とすところだった。 「……冗談?」 「当然」 だよな、と頷く。まんまと耳まで熱い。ジェリズ
結果オーライ、とおどけるといつも通り睨まれた。物騒な衝動が見え隠れしているが彼女のそれはくりくりとチャーミングな瞳なので。 「いつも思うんだけどそれ意味ないよ」 「何よ!」 「上目遣いってグッとくる」 馬鹿にして、とリズボンが憤る。ほらまた、と指摘するとついに足蹴をくらった。ミツ木々
もう少し愛想があれば。通りすがりの風評は彼にも聞こえたらしく、少し間を置いてから、大丈夫かと気を遣われた。 「別に。愛想がないなんて今さらでしょ」 いやあ、とミツヒデが破顔する。 「そういうところも可愛いからな」 それはそれで話にならない。嘆息する木々に彼はやはり笑っていた。クリジル
賭けてもいい、とジルが静かに銃を構える。クリスはまさかと笑いながら分厚い扉を睨み付けた。 「じゃあ扉の向こうにいるのが人間なら今夜は私が奢る」 「化物だったら俺の奢り?」 くぐもった咆哮が耳に飛び込む。辟易。 「生きて帰ってシャワー浴びて寝る」 だよな、とクリスは銃を構え直した。千速
見せて、という速水に、千葉は駄目と言って前髪を押さえた。目が見たいだなんて彼女もなかなか大胆だ。 「なんで」 「ばれるから。色々」 例えば彼女への想いとか。 「だから見たいの」 速水が右手で銃を模す。観念しなさい。まんまと撃ち抜かれた千葉は、ばれたほうが早そう、と諸手を上げる。ジェリズ
後で息を呑むような呼吸が聞こえ、首を巡らせると丁度リズボンが飛び起きたところだった。予定外の仮眠に焦る彼女はジェーンを認めるなり眉をつり上げる。 「起こしなさいよ!」 「いやあ、勿体なくて」 可愛い寝顔。からかうと睨まれ、けれどそういう瞳を見るほうが好きだ、とジェーンは笑う。クリジル
口下手だという自覚はある。けれど言わずとも汲んでくれるという出来た相棒が長年傍にいたがために口下手も不器用もろくすっぽ改善されなかった。その結果肝心なことはいまだ言えぬまま。 「なあに、クリス」 「いや」 触れた手を離す。肝心なことだけ汲んでくれぬジルは呆れたように笑っていた。ミツ木々
やっとのことで告げた想いに、彼女の反応は噴き出すという拍子抜けたものであった。いつかのセレグでのそれと似ている。 「木々……」 「ごめん。だって今さら」 知ってたよ、と木々。 「どれだけあんたを見てたと思ってるの」 じわ、と幾つもの感情が胸にせまる。たまらず華奢な体を引き寄せた。