クリジル
幸せになってくれたらと思う。多くの傷を負ってなお戦う、強くて優しい男なのだ。 「あなたは世界より家族を守るほうが似合ってる」 クリスは笑った。そういうのもいいな、と。 「だけど君って守られるより戦うタイプだろ」 確かにそうだ。素敵なプロポーズ、とあしらうと彼は満足げに肩を竦めた。ニクジュディ
相棒だってハグはする。頬にキスもする。そうなると結局仲良しな相棒、という事になる。そうじゃなくて、とジュディは彼の手を掴んだ。 「ん?肉球が羨ましいか?」 掴み方を間違えた。 「もういい」 「おーい、待てって」 こうだろ、とにやつく相棒が相棒らしからぬ物腰でジュディの手を取った。ミツ木々
良くも悪くも実直な彼はそういった受け答えも心得ている。つまり優等生的な応えを。 「俺は木々の相棒ってだけで満足だからな」 ある意味で執着を捨てている。木々はどうにも気にくわない。 「あんたは相棒だけで満足なの」 え、と彼が固まる。無いものねだりを引きずり出してやりたかった。ニクジュディ
スマートな詐欺師として生きていた頃は何よりも自由気侭だった。あの頃を思うと今の生き方は多少窮屈ではある。ルールは守らねばならないし善悪なら善を取らねばならない。けれど。 「ニック、何してるの!早く!」 だってこんなに甘美なしがらみがあるのだ。安い事だ、とニックは過去の自分を笑う。キャスケット
相棒のピンチに颯爽と駆けつけるだなんて理想論だ。記憶の限り相棒がピンチの時はおおむね自分もピンチである。 「冷凍庫で凍死しかけたり?」 「トラの餌にもなりかけた」 「車ごと海に落とされたこともあったわ」 「そうだ!君が銃をなくして!」 よく生きてたものよ。隣でマーサがごちる。ジェリズ
あなたの隠し事ならわかる、と数えきれぬ程ジェーンに騙されてきた彼女は見慣れた顰め面で断言した。 「だから先に言って」 「ええ?やだよ」 ジェーンは肩を竦める。 「僕が勝手やって、君が怒る。それが定石ってもだろ」 馬鹿じゃないの、と彼女が憤る。馬鹿なんだ、とジェーンは満足だった。ミツ木々
きつく閉ざされた瞼がうすらと開かれ、眦に滲んだそれがつとこめかみを伝った。 「木々」 ミツヒデは誘われるように唇を寄せる。今まで一度だって見ることのなかった涙が、今、無防備に晒されている。彼女の気高さを穢してしまったような背徳感。けれど。 「――すまん、木々」 ひどく、高揚した。クリジル
長らく相棒という関係に甘えてきた代償であろう。交わしたキスには妙な気まずさがあった。今さらと言うべきか。ようやくと言うべきか。ジルも似たような表情である。 「何か言ってよ」 けれど目元が笑っている。 「……もう一回いいか」 まったく年甲斐もない。耐えかねた彼女がついに吹き出した。クリジル
まいった、とクリスは空を仰ぐ。遠くを見る彼の腕には、日ごろ冷静で気丈でしたたかなはずの相棒が小さく収まっている。泣いている。のだと思う。 ジル。 名を呼ぶと白い手が弱々しく縋った。当惑し、躊躇して、あきらめる。気づかぬふりだって楽ではないのに。クリスはその瘦躯を抱き寄せた。尾葉
様子が変だと思っていたら無線越しに、実は、と切り出された。足を挫いた。葉隠の声は明るい。 「えっ、大丈夫?何で黙ってたんだ」 「いやー」 「俺の見てないところで怪我なんてしないでよ!」 言って後悔した。とんでもない台詞を吐いた。見えないでしょ尾白くん、笑われて言葉もなく顔を覆う。