相ジョ

崩れた空を見て遣らずの雨だと嘯いたのは彼女で、部屋で飲んでいただけの緩い空気がわずかに色を変えた。何を、と相澤は鼻で笑う。 「駆け引きなんて柄じゃないだろ」 「おまえに言われたくない」 無粋だと指を突きつけるので差すなとその指を掴む。駆け引きなど必要ない、結末などどうせ知っていた。

リヴァハン

順番だと昏い声が脳裏から離れない。何があったと彼は問うが答えようもなく、少し凹んでてねとハンジは雑にはぐらかす。 「胸くらい貸せるぞ」 「ええ、あなたの胸狭そう」 遠慮するよと笑うと盛大な舌打ちが聞こえた。荒い手つきで押し付けられた彼の肩口、やれやれと息を吐いて濁った感情を預ける。

乱与

無邪気なてのひらの他愛ない接触、そこに深い意味も深い感情もきっと探してはいけない。陳腐な友情を掲げて与謝野はその手を握り返す。 「物足りない?」 けれど見て見ぬふりを許さぬ、容赦のない彼の言葉が。唇を噛む与謝野にそれでも乱歩は笑って、僕はね、と躊躇うてのひらを強く握りしめた。

相ジョ

ぞんざいに扱って尚むけられる甘言にひとつの優越感を見出した。自分への執着と錯覚して無益な応酬を繰り返す。 「すきだぜ、イレイザー」 煩いと流して照れんなよと背を叩かれる。彼女はどこまでわかっているだろう。わらう口元を俯いて隠す、そこに根差す感情はきっと自分が知るよりいびつだった。

相ジョ

悪戯に光る瞳が思いのほか思慮深いこと、怒る時も泣く時も先に笑おうとすること、笑い方もその意味も感情も、笑顔以外の顔だって知っていた。 けれど眼前の。濡れた瞳と熟れた頬に確かな熱を宿すその顔が。 「ま、って、相澤」 しらぬ表情に浅ましい情動がさわぐ。またない、と彼女の頬を捕らえた。

クリジル

人外とまで揶揄される屈強な体躯を狭いソファに収めて、ひとの膝を枕に一時の休息に浸る彼の表情は眠りの中にあってなお険しい。気難しい目元に引き結ばれた口元、ジルは気休めに眉間の皺に指をあてる。何もこんな窮屈な場所を選ばなくても。折角膝を借すのだから穏やかな寝顔を拝みたいものである。

アニ→ベル

壁の外と中の世界、刷り込まれた善と悪、名誉とやらを託されてただの人間を蹂躙した。同じ罪業を背負う彼との、それはきっと傷の舐合いでしかなかった。 けれど果たして、最後の瞬間に誰を思うだろう。 実直な眼差しを覚えている。最後に呼ぶなら彼がいい。その時こそ無垢な感情を許される気がした。

乱与

無縁のものとしていた浅ましい執着を知る。彼女の涙を見た時、彼女の笑顔を見た時、指折り数えて、なんて無粋だ、と乱歩は答えを見つけた。 「嗚呼、君のやさしさを知った時だ」 彼女は首を傾けて、なんだい何も出ないよと可笑しそうにする。まるで普通の人間のようではないか。乱歩は満足がって笑う。

ベルアニ

もたげた傘の狭い空間、ただでさえ高いところにあって雨凌ぎに不便な場所に彼女が滑り込む。ベルトルトは慌てて傘を持ち替えた。彼女は素知らぬ顔。 「……アニ、傘」 「持ってない」 持っているはずでは。野暮な言葉は彼女の空音に遮られてあえなく消えた。そう、と緩む頬。心ばかり傘を傾ける。

乱与

生き方を知った。笑い方を思い出した。絶望さえ呼びうる力を一蹴し、そんなものは要らぬと呪縛を断ち切ったのが彼だった。 「妾は乱歩さんを守りたかったんだ」 彼の世界を。彼がこの心を守ってくれたように。 「君は優しいからね」 知ってたけどと乱歩が笑う。その目許はどこか泣きそうにも見えた。

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