ベル→アニ

もとより期限つきの命だった。期限つきの感情だった。一人戦う彼女の無事を願う心も気休めでしかなくて、けれど、最期が決まっているのならと変わらぬ純情を欲張る。 (僕は君をすきなまま死ねる) 彼女もそうであれば。他の恋など知らず、知らぬまま、きっと自分の待つ地獄へ落ちてくれたらと願った。

クリジル

歴戦の勇士、生ける伝説、重苦しい称号を背負う彼の向かう先は日ごと過酷さを増してゆく。彼の腕に不安などない。心配するなと笑う、その言葉を疑う事が共に戦い続けた彼への裏切りとなることも知っている。 (気をつけて) (どうか無事で) けれど一度でいい。行かないでと言ってしまいたかった。

相ジョ

ぐらつく意識にぬめる鮮血、生きてるかと問う彼のほうも随分な体たらくで、おまえこそと笑い飛ばしたら脇腹が痛んだ。 「生きて帰れたら結婚する?」 「フラグだろそれ」 おまえと心中なんざ御免だ、彼の言い草に悪くないけどなと嘯く。本気か冗談か答えを持たぬ空言、舌先に邪魔な血を吐き捨てた。

乱与

かつて地獄のさなかに芽吹いた、柔く生温い感情を果たして恋と呼ぶのか。あるいは気休めの安息を得るべく錯覚した、ひとつの防衛本能か。 「つまらない話だ」 「随分じゃないか、ひとの初恋を」 「答えなんて要らないくせに」 違いない、と与謝野は笑う。だからこそ彼が不機嫌なことも知っていた。

相ジョ

怒ることも悲しむこともその表情から汲み取れぬ、彼の性分はたしかに合理的でどこか息苦しい。湿気てんな、と笑うと何も言わずに目を逸らされた。せめて感情の行き場があれば楽だろうに。 「笑えよ、私のヒーロー」 欺瞞も傲慢もわかっている。それでも福門は福門の正義でそれを願うのだ。

乱与

とうの昔に蓋をした、不憫な感情の残骸を彼が突きつける。 「君はいつまでそうしているの」 揺らぐ心を与謝野は嘲笑う。だってこれは酷い傲慢だ。かつて拠り所となった人を死なせて尚ひとを恋うなど。 「ふふ、いつまでだろうねェ」 けれど虚栄すらきっと無力だった。誤魔化しようもない。彼が恋しい。

クリジル

たくさんの死を見た。同胞たちの無惨な最期。ひととしての尊厳すら奪われた人々。だれもが救いを求めて手を伸ばして、けれどそこに神などいなかった。 「今さら縋る気もしないけど」 「君らしい」 苦笑するクリスにジルは肩を竦めた。ろくでもない神だけれど感謝はしている。彼がいてくれてよかった。

ニューティナ

人間という生き物の向ける瞳が苦手だった。言葉が苦手だった。己がいるべき世界に意味を見出せず、けれどそこに心を見つけたのが彼女だった。 「出会い頭に連行されたけど」 「誰のせいよ」 彼女の声、彼女の眼差し、彼女を彩る世界ならきっと愛せる。彼女が教えてくれた、それはひとつの希望だった。

ニューティナ

ふつう、と彼の講釈がはじまる。皮膚の接触、甘噛、そこに付随する生物の本能。人間という生き物はそこに愛着を見出すけれど、と止まらぬ動物学者の悪癖に息をつく。 「ふつう」 ティナは彼の唇に指を当てた。 「こういうときは黙るものよ」 きっと口実にもならない。ごめん、と笑った彼が顔を寄せた。

乱与

近まった目線の高さ。とうに抜かれた酒の量。嗚呼。なんだか癪だ。 「君が手元から離れていくみたいだ」 放られた手のひら。瞬いた与謝野が、すりと華奢な指を擦り寄せた。 「どこにも行きやしないよ」 指先を握る。拙い手遊び。彼女の言葉も微笑みも、そこに偽りなど見てはたまらないと目をつむる。

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