バック・アレイ・トラップ
 背中が冷たい。おまけに痛い。布越しの固い感触が、身じろぐたびに背に擦れる。 「んん……」  潜り込んだ舌がちらと上顎をなぞって肌が粟立った。瞼をうっすら持ち上げると揺らめく篝火と視線が絡まって、どうせ情欲に溶けきった情けない瞳を間近に捉えられて、無意識に差し出していた舌に羞恥を覚えるのも馬鹿らしくなってしまう。  唇が離れて熱い吐息が頬を掠めた。きっと自分の息も熱い。 「……発情期か、ぬしは」 「今さら」  ひそめた声が擽ったくて月詠は顎を引かせる。結った髪が背後の壁にこすれて少しよれた。後で直さねば。頭の片隅の冷静なところだけが一連の行為に辟易している。 「まるで猫じゃ、こんなところで盛りおって」 「あらら、ずいぶん余裕じゃねえの太夫。銀さん自信なくすわァ」 「なんじゃ、白々しい」  冷たい地下都市の冷たい路地裏。こんな場所で、ひっそり戯れ合うように熱をやりとりして、そのくせ互いに溺れてなどいないふりをする。生気をなくしたはずの双眸をも煌めかせる、体から滲み出る熱量のほうがよほど雄弁である。どうせこの男もわざと煽って煽られて面白がっているに違いない。相変わらず面倒臭い男だ。 「恥じらって抵抗するくらいの女が好みか」 「いや別に。ただお前がすかしてるから情緒ねえなっていう」 「情緒?」 「だってこういうの興奮すんだろ」  否も応もない。再び傲慢な唇がかぶさった。何が情緒だ。  あっという間に思考を籠絡され、侵入を阻むのも億劫でぬめる舌を素直にふくむ。ねっとりと絡み合う熱にはどこか惰性すら感じられた。鼻から抜ける声と粘っこい水音、絡まる舌、後頭部を守るてのひらと上がる体温。  さらに深い角度を求めて離れた隙をついて、今度は月詠のほうから唇を押し付けた。 「情緒は知らぬが」 「あ?」 「癖になりそうじゃ」  わずか数センチほどの距離で。  熱を煽る。 「——サイアクだ、お前ェ」  捨て台詞と裏腹に上機嫌に笑った銀時が、再びかじりつくようにして熱を喰らった。
くそほど短いのはtwitterで雑に投げた短文だったためです

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