voce pastosa
瞼を持ち上げて早々、ああ駄目だ、と陸奥は悟った。駄目だ。眠い。
半分も開ききらなかった瞼の合間から、白い光がじりじりと意識を刺激する。じわじわと脳みそを呼び覚ましていく。けれどまとわりつく睡魔もなかなか手強く、覚醒を促すそれがどちらかというと不快だった。目をすがめるようにしてやりすごし、そのままずるずると瞼が落ちてきてしまう。
ああもうどうしてこんなに。
とにかく寝てしまおうそれが早いと、寝返りを打とうと身じろぎ、けれど叶わず、その窮屈さに再び意識が浮上してしまった。
ひとまず仰向けに落ち着く。居心地を整えようともう一度身じろいで、失敗した。瞼越しの光がまぶしい。
陸奥は不機嫌に眉を顰めた。頭もどうにも収まりが悪い。
「おん? 起きたかえ」
降ってきたのは聞きなれた男の声である。
陸奥は緩慢に瞬きをして、覗き込んでくる色眼鏡を顰め面で見上げた。
「相変わらずひっどい寝起きじゃのー。まだ眠いかや」
「……眠い」
「そりゃァそーじゃろーて。おんし何徹しちゅう」
かさと紙の擦れる音がして、計算すら億劫がる陸奥の頭にでかい手が触れた。そろりそろりとくしけずるように髪を遊ばれ、なんだかむず痒い。子供扱いで甘やかされている感覚と、不器用ながら心地のいい指の感触と。
「もうちっくと寝ててえェぞ」
「仕事……」
「心配しなー、わしがやっちゅう」
いや、むしろ、そのほうが不安が。
けれどそんな懸念が頭をもたげるより先に、髪をいじっていた手が離れ、視界がわっと覆われる。眼球を刺激していた光が遮断され、陸奥の体から知らず力が抜けた。
寝んしゃい、と優しい声に促されて、でかい手のひらの下、陸奥は今いちど瞼を下ろす。
「歌でも歌うかやー。ねーんねーんーころーりーよォー」
あァもううるさい。
深く沈みゆく意識の中、やかましい歌声に毒付いて、けれどそれが言葉として坂本に届くことはついぞなかった。
(2012/11/22)