文マヨ礼装イベ案件
 美酒に酔い、絢爛たる空間に揺蕩うほどよい酒気に酔い、ふと外の空気が恋しくなった与謝野は当たり障りのない世間話を切り上げてバルコニーへ出た。閑談の声が遠ざかる。ひやりと夜の外気が涼しい。手摺に触れて息を吐き、中途半端に道連れにしてしまったグラスに口をつけたところで、背後から耳馴染みのある声が聞こえた。 「ご機嫌麗しゅう、レディ」  振り向くと普段より窮屈そうな礼装を案外スマートに着こなした名探偵がつまらなそうに笑っている。楽しんでる、と手摺にもたれながら問うので与謝野は肩を竦めた。 「ぼちぼちだね」 「よく云うよ、だいぶ堪能した顔してる」 「ふふ」  夜風が火照った頬に心地良い。アルコールが顔に出ていると自覚できる具合には酔っていないが、それを誤魔化すことが億劫な具合には酔っていた。いずれにせよ相手は乱歩だ。隠す意味も必要も与謝野にはなかった。 「酔うだけならいいンだけどねェ、人酔いしそうだ」 「そんな服着てるから余計なのまで群がってくるんじゃないの」 「おや、似合ってないかい」 「それ訊く?」  わかりきったことを、と乱歩がわざとらしく舌を出す。与謝野は上機嫌に笑いながら、それでもやはり彼の言葉が欲しくてくるりとグラスを揺らした。 「乱歩さんも男前だよ」 「どうも」 「つれないねェ」  鼻を鳴らした乱歩が何かを言いかけて、結局なにも言わずに息を吐いた。やれやれと露骨に嘆息する、その眉間には皺まであってどうやら機嫌が芳しくない。そもそもこの男が出掛かった言葉を飲み込むなど。 「綺麗だって云ってあげてもいいけど、他の男と同等みたいで嫌だ」 「おや珍しい、乱歩さんが嫉妬とは」 「まあね」 「大体あんなモン社交辞令だろ、妾は乱歩さんにこそ云ってほしいけれど」 「ああほら、これだもの、与謝野さんって」  大仰に肩を落とす、その仕草がどうにも芝居がかっていて与謝野は首を傾ける。何が言いたいんだい、そのままを問うと乱歩が別にと口を尖らせた。言葉と裏腹に不機嫌のちらつく瞳が剣呑に細められる。 「なんだい、気になるよ」 「別に。ただ、僕に判らないことはないわけ。君が社交辞令って一括りにする連中のどれが下心かだってすぐわかる」 「へェ」 「楽しむな」  ぐんと手摺から身を起こした乱歩が与謝野に詰め寄る。微酔のせいか逃げる気も起きず、与謝野はおとなしく至近距離の翡翠色を見つめた。ほのかにコロンの香りがする。福沢よりは太宰だろうな、と与謝野は出処のあたりをつける。 「――綺麗だよ、与謝野さん。だから一応気をつけて」 「一応ね」 「君の凶器をしらない命知らずの男もいるからね」  口説き文句としてはいまひとつだが不機嫌ぶった男の言葉と思えば上々である。及第点、と与謝野は自分の内で妥協する。  そのまま離れるかと思った乱歩がふとグラスを握る手に触れた。じかの体温。骨ばった指先が与謝野の指を辿り、きゅ、とグラスのふちをなぞる。 「これもほどほどにしてよ、後で僕の相手してもらうんだから」  その瞳にともる色香が。けれど見えたのは一瞬だった。  わかってるよ、とどうにか応じる。先までと打って変わって満悦に笑んだ乱歩が、じゃあ後でとさっさと踵を返して去っていった。本来与謝野は涼みにきた筈だがこの体温ではまだ戻れない。小さく息を吐いて、もう少しと手摺にもたれて夜風を待つ。
終電アウト反省文(お題:幸の薄い与謝野)
 夢を見る。寝不足で擦り切れた体も脳味噌も深い眠りを欲しているというのに、重苦しい眠りの中で居場所を奪われる、ひどい夢ばかりを見た。  医務室で眠っては夢を見て、魘されて飛び起きて、それでも与謝野は部屋で眠ることを怖れる。夜に眠ることを怖れる。医者が不眠症とはね、と名探偵は可笑しそうだ。 「挙げ句の果てに起きてまで夢を見るだなんて」  とんだ笑い草だ、夢を自称する彼は現実のように笑ってデスクに凭れ掛かる。文献から顔を上げた拍子にくらりと脳が揺れて、どの口が言うのだ、と与謝野は頭を押さえた。瞬きをするたびに目が霞む。 「ああ、駄目だ」 「眠る気かい? 魘されても僕は起こしてやれないよ」 「いいよ、放っといておくれ」  デスクに突っ伏して目を閉じる。ぐんと意識の沈む感覚。遠くにおやすみと彼の声が聞こえた。  眠れなくなった発端は何だっただろう。おそらく切っ掛けらしい切っ掛けなどなかった。稀少と褒めそやされる自身の力に自身の存在を脅かされる予感がした、医者としてひとりの人間として漠然とした不安に駆られた、ただそれだけの話だ。 (聡い貴女のことだ、お気づきでしょう、社長も、嗚呼、森さんだってそうだ)  夢のなか、柔和な笑みをひけらかし、彼は心底可笑しそうに笑う。必要とされているのが貴女だとでも、太宰の声は上機嫌ですらあった。歌うような声と裏腹にくらい双眸が与謝野を射抜く。そうだ、彼らが欲するものは代えの利くこの身ではなくて。 「僕には理解し難いよ、そんな力を持って何故医者になんてなったのさ」  眠る前と変わらぬ体勢のまま、三十分程度だねと彼が申し訳程度の睡眠時間を告げる。身を起こした与謝野ははあと息をついてデスクチェアに凭れた。仰いだ天井、蛍光灯の明かりが目に痛い。 「この力があるから医者になったンだ」 「難儀な話だねえ」  くすくすと彼が笑う。与謝野は目を瞑った。どろりと重たくへばりつく瞼、そんな力を持ったばかりに、と遠くに聞こえる彼の同情の声はやはり笑っている。  そんなものという代物なのか。与謝野はすこし悲しい。 (そうだ、貴女の力だ、貴女の力があるばかりに)  項垂れた頭を片手で支え、力なくこぼされた声に普段の覇気はない。探偵社は破滅へ向かう、絞り出された言葉とともに国木田が顔を上げる。目が合った。疲れきった瞳だった。 「ただの医者として生きるほうがずっと楽だろうに」  切れ長の瞳が与謝野を見下ろす。翡翠色だった。十分も経っていないよ、訊いてもいないのに答える彼は、そんなところで寝ていたら夢見も悪いと与謝野をベッドへ促す。夢見も何も、と現実味のない彼にふらふらと誘われながら与謝野は笑った。 「楽だろうが此処にいられなきゃ意味がない」 「この先ずっと眠らないつもり?」 「アンタとは長い付き合いになりそうだ」  光栄だね、うそぶいた彼がベッドの縁に腰掛けて与謝野の眠りを見守る。シーツをかぶって枕に沈んで、与謝野はそれでも此処にいることが自分のしあわせなのだと彼に告げた。ふわふわと力の入り切らぬ声だった。 (しかしそれは皆のためにならない)  嗚呼。最悪だ。  思慮深い瞳をした彼が表情ひとつ動かさずに与謝野の腕をつかむ。力強い、そのくせ体温の感じられぬてのひらだった。お前のためにもならぬと言う、その声もその双眸も現実のそれとまるで変わらず、そんな目で見ないでと与謝野は泣きたかった。  嘘だ。夢だ。あのお人がこんなことを言うはずがない。  わかっているというのに彼の発する最後の言葉がこれ以上ないほどに怖ろしかった。要らないだなんて聞きたくない。腕を掴む手を引き剥がそうと抗う。離してと懇願する。福沢さん、縋るように見上げた先、彼は憐れむような眼差しで与謝野を見た。 「与謝野さん」  ふつと目を覚ます。手首がまだ痛い。荒い呼吸を押さえて視線を巡らせると、眠る前に見た彼と同じ場所に乱歩が腰掛けていた。 「……ああ、本物だ」 「寝ぼけてる?」 「ふふ、贅沢な話だねェ」  乱歩は笑いごとじゃないと鼻を鳴らした。また眠れていないの、彼の手が悪夢に捕われた腕を取る。夢のなかの恐ろしい腕を解こうとしてつけた、いびつな爪痕が赤く残っていた。自分よりもよほど痛そうにそれを見つめて、乱歩は与謝野を抱きしめてベッドに沈む。 「夢見が悪いなら添い寝してあげるよ」 「あァ、それはずいぶん」  心強い。空恐ろしい。建前と本音を取り違えそうになって、与謝野は慌てて口を噤んだ。途切れた言葉の先をそれでも乱歩は正確に汲んだらしい。安心していいよ、彼の言葉はどこか言い聞かせるようでもある。 「……有り難う、乱歩さん」  安心とも不安とも与謝野は口にしなかった。背に回る彼の腕に身体が強張って、押しのけてしまいたくなる衝動を唇を噛むことで堪えた。  眠ることが怖かった。彼の腕に包まれて眠る、その先にあるのはきっと他でもない彼に絶望をつきつけられる、途方もない悪夢に違いなかった。
わたし「終電だめだったら何でも書きます」
純情なほう
 ずるずるとソファに押し倒されて口付けがずれる。惑う与謝野の手を取って乱歩は再び口付けをしてくれて、知らず強張っていた体から徐々に力が抜けた。絡む手を握り返すとそろりと乱歩が顔を離し、与謝野さん、と肌をくすぐるような声で名を呼ぶ。覗く彼の瞳にちらと余裕のない色が宿る。 「与謝野さん」  縋るように名を紡ぐ彼の声がいいかと問うている。良いか悪いかと訊かれるともちろん悪い筈はないのだけれど、覆い被さる彼の纏う空気があまりに普段とかけ離れていて流石に怖気づいた。 「……あー、と、乱歩さん、あの」 「なに」 「らしくないって笑うかもしれないけれど」 「笑いやしないよ」 「心臓吐きそうなんだ」  ちょっと待って、懇願する声に彼が微かに眉根を寄せた。取られた手が熱い。表情を取り繕う様子のない乱歩に与謝野の不安は増してゆき、初心な娘でもあるまい、と自分でいたたまれなくなる。 「……乱歩さん?」 「それって」  おもむろに口を開いた乱歩がついと目を細めた。切れ長の目元が妙な色香を纏い、口付けでほぐされたはずのからだが再び緊張を帯びる。 「それって、嫌だってことじゃないよね?」 「へ」 「僕だから嫌って訳じゃないよね? それとも怖い? 君って初めてじゃ」 「乱歩さん」  放っておくと余計なことまで口走りそうな乱歩を遮って息を吐く。アンタにもわからないことがあるんだね、かろうじて聞き返すと乱歩はそりゃあねと与謝野の手を自身の胸元に導いた。 「わかってたって不安なんだ」  どくどくと脈打つ心臓の音がてのひらに伝わる。君だけじゃない、彼の声は掠れていた。 「僕だって同じ」 「おや」 「らしくないって笑う?」 「笑えるはずがないだろ」  むしろいっそう熱が上がりそうだ。  あの乱歩が不安がっている、ましてやその不安に自分が影響しているなど、かつて不遜なばかりの彼しか見ていなかった頃にはきっと信じられなかっただろう。今だって探偵社の大半は彼の高まった鼓動など信じられないに違いない。  けれど江戸川乱歩という人間が、その実ひとへの情を奥底に潜めていることも、その情が案外やさしい形をしていることも、つまるところ周囲が思う以上に彼が人間じみていることも、長らく傍で見てきた与謝野は知っている。らしくないなどとんでもない、それでも自分と同じ感情が彼にもあると思うと妙に気恥ずかしくて、与謝野は少し待ってと乱歩の胸を軽く叩いた。 「待ってと云われてもね」 「何か喋ってておくれ」 「いや何かって、事件の話でもする?」  他に話の引き出しなんてないけど、彼がしかつめらしい顔で言うものだから与謝野は噴き出した。そいつは困った、と笑った拍子に余裕をなくしていたはずの感情までほぐれて、彼との不安もこのままでいいような気さえしてくるから現金なものだ。 「色気も何もあったモンじゃないね」 「僕ららしくていいんじゃない」 「そうだねェ」  もったいぶる言い方をして、けれど確かにそうかもしれないと与謝野は満更でもない。そろと寄せられた唇に目を伏せたはいいがやはり笑ってしまって、ふと瞼を持ち上げると乱歩も困ったふうに笑っている。きっとこのくらいが丁度いいのだろう。ひそやかな笑い声に心音を潜ませて、与謝野はもう一度と口づけをせがむ。
[乱与の場合] 君の名を呼ぶ。触れてもいいかと許可を取る代わりに。意図は伝わったようで、ちょっと待って、と制止する声に余裕はない。このまま口を閉じてしまったら、お互いの鼓動の音が聞こえてしまいそうだ。 https://shindanmaker.com/641554
気休め未満
 どんな深手も傷跡ひとつ残さず元通りにしてくれる異能も流石に衣服に染み込んだ血までは綺麗にしてくれない。敦を庇って想定以上に血を流し、結果的に異能の発動条件が整って大事なく依頼を片付けた与謝野の目下の本音は、着替えたい、というそれであった。落ち込む新人のフォローと説教を国木田に任せて医務室に戻ろうとする、その矢先に乱歩が立ち上がったので驚いた。与謝野が帰社してから一言も口を利かぬので正直寝ているものと思っていたのだ。与謝野さん、と手を掴んだ乱歩はそのまま与謝野の手を引いて医務室に向かう。  彼の声も手を掴む力もいつもと違う。機嫌がよくないな、という与謝野の予想は当たっていた。医務室の扉を閉じるなり与謝野の頬を引き寄せ、死にかけた、と名探偵はずいぶん剣呑な顔で言う。 「乱歩さん?」 「君の力ってこういうとき嫌いだよ」 「そうは云ってもねェ」  与謝野は肩を竦める。彼の言いたいことはわかる。後輩を庇ったところで自身が怪我を負っては本末転倒という説教が定石だが、与謝野の場合その理屈が通らない。瀕死は無傷に等しい、そんな不条理を体現する与謝野にとって怪我は大層な問題ではないのだ。そうやって怒れぬところが乱歩の苛立ちに繋がっている。 「心配かけたかい」 「するよ、するに決まってる。君って油断するとすぐ死ぬんだもの」 「油断なんてしてないさ」 「死ぬほう否定してくれる」  わらいながら頬を押さえる彼の手に触れ、悪いねと与謝野は目を伏せる。かつて閉ざされた洋館でひとり殺人犯を待った時からわかってはいた。異能も何も関係ない、おそらく与謝野は怪我という危機感そのものに鈍くなった。 「どうせ治せるって驕りもあるんだろうね、怪我することに麻痺しちまッてるんだ」 「しってる。でも万が一ってあるんだよ、その万が一がどれほどこわいか君にわかる?」 「ごめんね」 「そんなのいらない」  いらないよ、乱歩は顔を歪ませる。そんな言葉も建前も無意味だと苦しげに笑う。飽き飽きした、と駄々をこねる。 「そんなのいいから早く僕を安心させて」  与謝野は苦笑して彼が望む通りに顔を寄せた。乱歩がもどかしげに後ろ頭を抑え込む。口づけをせがむくせに彼のほうが縋るようで、荒い口付けを受け止めながら与謝野は少しやりきれなくなった。食らうような口づけはそのまま彼の不安でもあった。持て余したであろうその感情を思って与謝野は熱い吐息を吐き出す。乱歩はそれすら逃さぬよう唇をふさいだ。ごめん、ごめんね、幾度も紡いだはずの声は悉く口内に消え、ついぞ彼の耳にまで届くことはなかった。
「黙ってキスして」そういってうんざりしたように笑う。 そんな乱与の、やるせない気持ちのワンシーン。 https://shindanmaker.com/580997
捕食
 肌寒さのいや増す薄暗い部屋の片隅に衣擦れの音だけが味気なく響く。放られた衣服を探る手元、身じろぐ彼の所作、シーツの微かなさざめき、ベッドの端に流された下着を回収しながら、背中に感じるのは静寂に紛れる息遣いよりも彼の視線であった。見てるな、と気に留めぬふりをしながら与謝野は息を凝らす。なにか、ものすごく、見ている。  背中に痕でもつけられただろうか。彼の性格上、与謝野自身も気づかぬ情痕を眺めてひとり楽しんでいるという可能性がおおいにあり得る。そう思うとやはり黙っていられず、なんだい、と与謝野はとうとう彼を振り向いた。 「ひとの背中眺めて楽しいかい」 「いや背中っていうか、まあ、楽しいけど」 「セクハラだ」 「今さら?」  緩慢に身を起こした乱歩が、くあと伸びをして与謝野を手招きした。衣服を手繰り寄せた矢先である。少し迷ってから結局身繕いを諦めて、彼に身を寄せると途端に右手を掬われた。危うくベッドに沈むところだった。 「なにす、る……」 「いやあ」  捕らえた腕をためつすがめつ眺めて、何が楽しいのか満足げに目を細めた乱歩がつと肌に指を滑らせる。骨ばった指が肌をなぞる、やわい接触に与謝野の肌は知らず粟立った。肘の内から二の腕、肩から首までの曲線を確認した指はやがて頬にたどり着き、今度はてのひらで与謝野の頬を確かめる。 「乱歩さん?」  いつの間にか吐息のかすめる距離である。すぐ間近、澄んだ翡翠で彼はふふと笑って、感慨深くてねと与謝野の頬を撫でた。 「あんな骨と皮みたいだった子が育ったものだねえ」 「褒めてるつもりかい」  セクハラだよと先の言葉をなぞる。乱歩は笑って、褒めてるに決まってるじゃないと得意になって与謝野の頬を解放した。 「強いて云うなら僕自身を褒めてる」 「それはそれは、太らせて食べようなんて魂胆だとは知らなかった」 「まあね、おかげで美味しく育った」  腕を引かれて今度こそ平衡を崩した。引っ繰り返した与謝野をやさしくベッドに縫い止め、見下ろす双眸が逃さぬと不遜に告げている。だれが逃げるものか。与謝野は笑って彼の首に腕を絡める。 「乱歩さんや社長がたくさん栄養をくれたからね、生き方を教えてくれた」 「だからおとなしく食われるって? 献身的だね」 「真逆、ひとを見る目だって乱歩さんがくれたんだろう」  とはいえ彼の狡い瞳にばかり捕らわれるようになった愚かな両目である。今だってすでに、数分前には衣服を纏うつもりでいたことなど都合よく忘れている。 「味が判らないンじゃ乱歩さんだって願い下げさ」 「ふふ、君ってほんとう」  にがそうだ。嘯く彼の声はたいそう甘やかである。  顔を寄せる乱歩が確かめようかと笑うので大人しく目を伏せる。食らうと豪語する一方で彼の口づけは優しい。ふ、と声を漏らしてさらにせがむと彼は応えるように舌を探り、それはまるで獲物を籠絡する甘ったるい罠のようで、必要ないだろうにと与謝野はひとり可笑しかった。
はすみの乱与へのお題は ▼餌付けする ・会いたいから会えない ・置手紙を残す ・傷口を舐める です。好きなお題で創作してみましょう https://shindanmaker.com/591476

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